A FAMILY STORY OF THREE
家族3人のそれぞれのものがたり
これは、3階建ての家に住む、母、息子、父から見た
それぞれのはなし、それぞれの世界。
“ふつう”だけど、完璧じゃないけど、
かけがえのない今日を、大切に想えるように。
THREEを舞台に3つのものがたりが描き出す、家族の毎日に想いを馳せて。
陽がだんだん短く、陽が落ちると一層肌寒くなってきた、10月の終わり。
キッチンから中庭の樹の頭だけ見える。
赤く染まった葉が、乾いた風に揺れている。
ぼーっと手早く家事をしていると、昔のことをふと思い出す。
子どもがまだ小学生のころ、地元の少年サッカークラブに入っていた。
週末ごとに試合があり、よくお弁当を詰めて朝早くから応援に行っていた。
「またその服で行くの?」
「これ着ていくときあいつ調子良いから」
平日仕事で忙しい夫も、試合の時ばかりは気合いを入れて、
本人曰く縁起の良いTシャツを着て、応援に臨んでいた。
試合会場に到着した息子は、チームメイトの姿を見つけて
弾丸のように飛び出していった。
フィールドに立つ息子はいつもよりしっかり見えて、
もうこんなに大きくなったんだ、と実感する瞬間だった。
最大のチャンスというタイミングで息子にボールが回ってきた。
チームの声援に後押しされ、懸命に走っている。
ゴール枠に当たったボールはフィールド外に転がっていった。
試合は負けだった。
どうしても勝ちたかった試合だったから
息子はほんとうに悔しそうだった。
帰りの車の中で、タオルを頭にかぶったまま、
黙って窓の外を見ていた。
なんて言ってあげるべきか、その時の私には分からなかった。
「頑張ったね」
「…うん」
ふーっと一息ついて、カウンターに腰かける。
半分休憩しながら溜まっていた洗濯物をまとめて畳む。
ふと中庭のヤマボウシが目に入った。
家と同じだけの樹齢にしたくて、中庭にはヤマボウシを苗から植えた。
まっすぐに育つか不安だったけれど、
根腐れすることもなくすくすく伸びて、
今では私の背丈よりも高く、2階からも見えるようになった。
すっかり紅葉したうちのヤマボウシも、
春には毎年、真っ白の花がたくさん咲く。
そうか。
あの時、 励ますのではなくて、一緒に悔しがれたらよかったな。
もうしばらく前のことなのに、 今やっと、言うべきことが分かった。
私も精一杯だったから、仕方ないよね。
親といっても全て分かっているわけじゃない。
子どもを育てているつもりが、こちらが成長している。
私も学びながら進んでいるって、息子には伝わっているかな?
まあ、本人には言わないんだけど。
トン、トン、と
階段を下りる音がする。
噂をすれば。
息子が部屋から降りてきた。