A FAMILY STORY OF THREE
家族3人のそれぞれのものがたり
これは、3階建ての家に住む、母、息子、父から見た
それぞれのはなし、それぞれの世界。
“ふつう”だけど、完璧じゃないけど、
かけがえのない今日を、大切に想えるように。
THREEを舞台に3つのものがたりが描き出す、家族の毎日に想いを馳せて。
夕方には仕事を終えて風呂場へ向かい、
何を考えるでもなく湯船に浸かっていると、
気付いたら30分が経過していた。
うちの風呂は3階にあり、中庭に面した窓で採光が取れる。
外の空気を入れながら、暗くなっていく空を眺めていると、
仕事のことは忘れられる。
穏やかな気持ちが続かないのは、
息子のことを考えていたからだった。
息子は受験生だ。
部活ばかりしてきたが、地頭が悪くないから勉強もそこそこできる。
自分がそうだったから分かるが、周りが勉強を頑張ってるのを見て焦ってるんだろう。
あいつは自分の将来をどのように考えているのだろうか。
もちろん大学で人生が決まるなんてことはないが、
就職してからも学閥があったり、付き合う友達も変わる。
今のうちにちゃんとやっとけ、と強く言いすぎて煙たがられてもな。
「あまり父親がうるさく言うものでもないな」
風呂を出ると息子が珍しくダイニングの横のカウンターで勉強していた。
(言わなくてもやってるか、、)
俺も一階の和室に籠り、少しだけ仕事をした。
一息ついて、中庭の木に目を向ける。
もう18年か。
あっという間にでかくなったな。
窓を開けると、風呂で温まった身体が秋の夜風で冷めていき、心地よかった。
2階のダイニングに上がると息子はまだ勉強していた。
首を痛めそうな角度で参考書に向き合う姿が、
うちの奥さんにそっくりだ。
「お前こんな時間まで勉強してるのか」
「あと2ページで終わるから」
「勉強もほどほどにな」
分かってるようるさいな、と言わんばかりに息子はひとつ息を吐いた。
「次の目標が見つかった。やっと。」
「そうか。じゃあもう少しで春が来るな。おやすみ。」
冷蔵庫の麦茶を盗んで、勉強の邪魔をしないように寝室に退散した。